『タコピーの原罪』を読んだあと、心に残ったのは“物語の展開”ではなく、“どうしようもなかった感情”だった──そんな読者は少なくないはずです。
本記事では、『タコピーの原罪』と同じように、読者の奥底に眠る痛みに触れ、簡単には癒えない余韻を残す漫画を6作品ご紹介します。
「ただ鬱展開なだけじゃない」「どこかで読んだ気がするのは、きっと自分の記憶と重なるから」──そんな作品たちです。
この記事を読むとわかること
- 『タコピーの原罪』に心を動かされた人が共鳴できる、“感情の痛み”を描いた漫画作品を6つ紹介しています。
- 単なる鬱展開ではなく、子ども視点・感情のゆがみ・贖罪と赦しなど、『タコピー』と本質的に近いテーマを持つ作品だけを厳選しています。
- 「どうしてこの漫画はこんなに刺さるのか」という読後の違和感や共感の理由が、作品ごとの分析で丁寧に言語化されています。
- 記事を読むことで、自分の中にあった“忘れていた痛み”や“昔の記憶”がそっと呼び起こされるような感覚を味わえます。
- 「似ている漫画を探している」という検索の先にある、“心の居場所”を見つけるきっかけになります。
『タコピーの原罪』を読み終えたとき、胸に残るのは「可哀想だったね」ではない。
それはもっと複雑で、「わかってしまった自分がつらい」という感情だ。
救えなかった誰か、気づけなかった想い、どうしようもなかった状況──
そんな過去の記憶を無理やり引きずり出すように、あの物語は読者に“痛み”を突きつけてくる。
そして、それでもまた似たような作品を探してしまうのは、
「この痛みは、誰かと分かち合えるのかもしれない」というかすかな願いがあるからかもしれない。
この記事では、『タコピーの原罪』のように、“読むことで自分と向き合わざるを得ない”物語を6作、丁寧に紹介していく。
ただの鬱展開や感動作とは違う、“心を抉る共鳴”を感じてほしい。
『タコピーの原罪』に似ている漫画①:『イジメカエシ。-復讐の31-』
この物語に登場するのは、「正しさ」を盾にして壊れていく少女たち。
『タコピーの原罪』のまりなが抱えていた“怒りと孤独”──それはこの作品にも色濃く流れている。
復讐は正義か、それとも新たな傷か
舞台は、表面上は平穏に見える学園。だがその裏では、いじめ、排除、そして報復の連鎖が静かに広がっている。
主人公は、ある日、加害者の「復讐リスト」として選ばれる。それは、他人の痛みを“代理で晴らす”ゲームのようなもの。
「この子は苦しめられた。あなたが代わりに復讐して」
そんな歪んだ仕組みの中で、少女は“正義”を選びながら、自らの心もまた崩れていく。
他人の傷に共鳴しすぎる優しさ。
それが刃になって、自分自身をも深く傷つけていく──
タコピーで描かれた「まりな」のように、この作品の主人公もまた、“守る”という名の暴力に追い詰められていく。
少女たちの“限界”を描く構造が重なる理由
『タコピーの原罪』では、まりなの「怒り」が何に向かっていたのかが、物語後半で静かに明かされる。
それは単なる八つ当たりではない。誰かを守りたかった自分自身が、あまりにも報われなかったからだ。
『イジメカエシ。』にも、同じ構造がある。
正しさを手にしても、すでに何も戻らない現実。
「私は悪くないはずなのに、どうしてこんなに苦しいの?」
そう問いかける読者の心が、物語の深部と響き合う。
暴力が暴力を呼ぶのではなく、“悲しみが悲しみを複製していく”。
そんな痛みの継承を描いたこの作品は、タコピーの余韻を引きずるあなたにこそ、そっと差し出したい一冊だ。
『タコピーの原罪』に似ている漫画②:『聲の形』
「あのとき、ちゃんと謝れていたら──」
そんな“取り返しのつかない後悔”が、『聲の形』のすべてのページに刻まれている。
そしてそれは、『タコピーの原罪』における“東くんの物語”と、静かに重なりあう。
いじめ、贖罪、そして赦しの物語
物語の主人公は、小学生時代に聴覚障がいのある転校生・西宮硝子をいじめていた少年・石田将也。
彼はその行為をきっかけに周囲から孤立し、自分自身をも“罰する”ように心を閉ざしていく。
そして高校生になった彼は、かつての被害者・硝子に再会する。
「過去を償いたい」──その一心で動き始める将也。だが、赦されることと、赦すことは、まったく別の痛みを孕んでいた。
どこまでいっても、過去は消せない。
それでも、その重さを抱えたまま歩こうとする人間たちの姿が、この物語にはある。
救いのある“痛み”がタコピー後半と共鳴する
『タコピーの原罪』に登場する東くんも、心から愛していた姉を守れなかった“過去”を背負いながら、何度もやり直そうとする。
でもその選択はいつも、誰かの犠牲の上に成り立っていて──それでも彼は、諦めなかった。
『聲の形』の将也もまた、「自分がいなくなれば、誰かが楽になる」と思ってしまうほど、自責の念に囚われる。
でも、誰かと向き合うことでしか、赦しは始まらない。
それは「ごめん」と言えなかった過去の自分に、ようやく言葉を届ける物語。
そしてそれは、『タコピーの原罪』が描いたラストの“静かな赦し”と、美しいほど重なるのだ。
『タコピーの原罪』に似ている漫画③:『僕だけがいない街』
「あのとき、ああしていれば」──
誰しも一度は抱いたことのある“もしも”の感情。
『僕だけがいない街』は、その思いを本当にやり直せてしまう物語だ。
だがそれは、“もう二度と見たくなかった記憶”と、真正面から向き合うということでもある。
過去を変えることは、本当に救いになるのか
主人公・藤沼悟には、事件や事故の直前に“リバイバル”と呼ばれる時間逆行が起こる。
ある日、母親が何者かに襲われたことをきっかけに、彼は18年前の小学生時代に飛ばされる。
そこで再び出会うのは、当時、行方不明となったクラスメイト・雛月加代。
彼女を救うため、悟は過去を変えようと奔走する。
だが、「変える」という行為は、“責任を引き受ける”ことでもある。
“東くんがやり直せたなら”と重なるもう一つの世界線
『タコピーの原罪』の東くんもまた、姉を救えなかったことを悔い、何度も時を巻き戻してでも「正解」を選びたがっていた。
けれどそのたびに、誰かが失われる──そんな“悲劇の帳尻合わせ”に、彼は絶望する。
『僕だけがいない街』の悟もまた、何を選んでも、すべてがうまくいくわけじゃないという現実に何度もぶつかる。
それでも、「誰かを救いたい」と願う気持ちは、彼を立ち止まらせない。
この作品が静かに突きつけるのは、“過去を変えても、失われたものは完全には戻らない”という現実だ。
でも、誰かの未来だけでも変わるのなら、それはきっと意味がある。
そう信じたくなるラストが、東くんの物語にそっと寄り添ってくる。
『タコピーの原罪』に似ている漫画④:『ぼくらの』
「誰かを守るために、誰かがいなくなる」
それは正義なのか、それともただの犠牲なのか──
『ぼくらの』は、そんな問いに抗うことすら許されない子どもたちの物語だ。
子どもたちに課される理不尽な使命
夏休み、15人の少年少女が“ゲーム感覚”で契約したのは、地球を守る巨大ロボットのパイロットになるというもの。
だがその実態は、「一度乗れば、自分の命と引き換えにしか勝てない戦い」だった。
“選んだ”のではなく、気づいたときにはもう、逃げられない契約が成立していた。
一人、また一人と戦いに赴く中で、彼らは自分の人生と向き合い、そして“最後の行動”を選んでいく。
誰かを守るために、自分を差し出すということ
『タコピーの原罪』で東くんが選んだのは、「誰かが生き残るために、自分が犠牲になる」という決断だった。
それはヒーロー的な美談ではない。ただの、取り返しのつかない、やるせない選択だった。
『ぼくらの』の子どもたちもまた、自分の命に意味を持たせようと、何かを託しながら散っていく。
それが正しいのかどうかは、誰にもわからない。
でも読者はそのたびに胸を締め付けられながら、「これは誰かの物語だったかもしれない」と思わされる。
「まだ何も知らなかった子ども」が、「もう戻れない世界」を選ばされる。
そんな残酷で静かな絶望が、タコピーの世界観と呼応している。
それでも最後のページに灯るのは、ほんのわずかな、でも確かに“遺された光”だ。
『タコピーの原罪』に似ている漫画⑤:『友達として大好き』
「好きって言ったのに、なんでこんなに苦しいの?」
この作品が描くのは、無垢な感情が歪んでいく瞬間──
そして、“優しさ”という言葉に名前をつけられなかった子どもたちの物語だ。
無垢な“好き”が壊れていく瞬間
小学5年生の女の子・まなかは、同級生の女の子・ゆかに対して、友達以上の好意を抱いている。
けれど、その気持ちに自分でも気づかないまま、ただ「友達として大好き」と言い続ける。
しかし周囲のからかい、大人の目、ゆかの戸惑い──
そのひとつひとつが、まなかの“好き”をどんどん追い詰めていく。
やがて、まなかの純粋だった想いは、ゆかを独占しようとする“暴力的な感情”へと変わっていく。
まりなのような「正しいこと」が壊れていく感覚
『タコピーの原罪』のまりなも、「しずかが好きだから守りたい」と思っていたはずだった。
でもその想いは、“傷つけてでも手元に置きたい”という歪みに変わっていった。
『友達として大好き』のまなかもまた、「どうすれば好きな人と一緒にいられるのか」がわからないまま暴走してしまう。
その過程があまりにもリアルで、読者は自分の過去の“どうしようもなさ”を見てしまう。
好きな人を傷つけてしまったときの、あの罪悪感。
その痛みが、自分の中にまだ残っていたことに気づかされる──
それが、この作品がタコピーに通じる最大の理由だ。
「純粋だったはずなのに、なぜこんなに壊れてしまったのか」
その問いが、心のどこかにずっと居座り続ける。
『タコピーの原罪』に似ている漫画⑥:『おやすみプンプン』
「誰か、ぼくを見つけてくれたらよかったのに」
『おやすみプンプン』は、そう叫びたかった少年の心がそのままページに滲み出るような作品だ。
そしてそれは、『タコピーの原罪』で描かれた“孤独な子どもたち”の視線と、驚くほど重なる。
子ども視点で描かれる日常の崩壊
主人公・プンプンは、どこにでもいるような普通の男の子。
けれど、彼の家庭も、学校も、世界そのものも、“あたたかさ”とは程遠い現実に包まれている。
暴力を孕んだ家庭、断絶された大人たち、うまくいかない人間関係──
それらすべてが、まだ何も知らない少年の心を少しずつすり減らしていく。
プンプンは、心の中で神様と対話することでなんとか感情を整理しようとする。
だけど、“救い”なんて簡単には手に入らない世界で、彼がたどり着くのは、いつも「どうしようもなさ」だった。
感情の処理ができない“少年”の視界が重なる
『タコピーの原罪』のしずかも、まりなも、東くんも、
みんな本当は、「誰かにどうしていいか教えてほしかった」だけだったのだと思う。
『おやすみプンプン』のプンプンもまた、感情の正体がわからないまま、それを抱えきれず壊れていく。
明るい場所に行きたかったのに、どうしてもそこに届かない。
だからといって、暗闇にいることが自分のせいだとも思いたくない。
そんな矛盾と自己嫌悪が渦巻く物語は、
“子どもでいることの不自由さ”を突きつけるという点で、まさに『タコピーの原罪』と地続きだ。
誰にも届かない祈りのようなものが、そこにはずっと描かれている。
そしてその声に、あなたがふと立ち止まってしまうのなら──
たぶんこの作品は、あのときの“あなた”に手を伸ばしてくれているのだ。
まとめ|なぜ私たちは“痛い物語”を求めてしまうのか
それは、痛みだけが“本当の記憶”に触れてくれるから
『タコピーの原罪』のような作品を読むとき、私たちは決して「悲しい話が読みたい」わけではない。
ただ──胸の奥にしまい込んだままの感情が、静かに共鳴するのを感じてしまうのだ。
見ないふりをしてきた後悔、誰にも言えなかった苦しみ、
あの頃の自分が確かに抱えていたけれど、言葉にできなかった何か。
それに気づかせてくれるのが、こうした“痛い物語”なのだと思う。
『タコピーの原罪』のような物語が心に残る理由
“救いがある”ことが希望なのではない。
“救われなかった想い”を、誰かと分かち合えること。
それこそが、物語が果たす救済なのかもしれない。
今回紹介した6つの作品は、どれもが「簡単な言葉では語れない痛み」を描いている。
でもその痛みこそが、誰かの過去をそっと救ってくれる力を持っている。
もしこの記事を読んで、「この作品、ちょっと読んでみたいかも」と思ったなら──
それはきっと、あなたの中にある何かが、もう一度“声をあげてほしい”と願っているからだ。
この記事のまとめ
- 『タコピーの原罪』は、“子どもの目線で世界の歪みを見せつける”作品として、多くの読者の記憶に深く刻まれています。
- この記事では、その痛みと構造に近い6作品──『イジメカエシ。』『聲の形』『僕だけがいない街』『ぼくらの』『友達として大好き』『おやすみプンプン』を紹介しました。
- 救いのない展開や後味の苦さだけでなく、そこに滲む“誰かを想う気持ち”や“壊れた心が願ったこと”を丁寧に掬い上げた作品たちです。
- それらは決して楽しい読書体験ではないかもしれません。でも、「自分でも気づいていなかった感情」に触れるきっかけにはなるはずです。
- “読むこと”が、少しだけ心の奥の扉を開けてくれる。そんな体験を求めている人にこそ、この記事が届いてほしいと願っています。