『タコピーの原罪』を読んでいて、まりなというキャラクターに違和感や反発を覚えた人は少なくないでしょう。
だけど、その「嫌い」という感情の奥には、まりなが抱えていた“どうしようもなさ”への痛みが潜んでいるのかもしれません。
この記事では、まりなが嫌われる理由を読み解きながら、母との関係性から見えてくる哀しき連鎖を、心にそっと触れるように紐解いていきます。
📝 この記事を読むとわかること
- 『タコピーの原罪』の登場人物・まりなが「嫌い」と言われる理由とその心理的背景
- まりなの母親との関係性が彼女の言動に与えた影響
- いじめや感情の爆発の背後にある、まりなの内なる孤独
- 読者がまりなに共感と反発の両方を抱く理由
- タコピーが象徴する「連鎖を断ち切る希望」とは何か
- まりなというキャラクターが読者自身の記憶とどこで重なるのか
まりなが「嫌い」と言われるのはなぜか?
『タコピーの原罪』を読み進める中で、多くの人がまりなという少女に「違和感」や「反発」を覚えたのではないでしょうか。
でもそれは、彼女の中にある“見たくなかった何か”を、私たち自身が知っているから。
嫌いと感じた瞬間、実は私たちの中にも、まりなのような“幼さ”や“叫び”が眠っていたのかもしれません。
感情を爆発させるシーンが読者を突き放した
まりなの怒りや暴言が描かれるシーンは、どこか突き刺さるような痛みを伴っていました。
彼女の心はずっと、「助けて」と叫んでいたのに、それがうまく外に出せなかった。
その叫びは、感情の爆発という形で読者に向けて飛び散り、共感ではなく拒絶を引き出してしまったのです。
いじめの加害者としての顔が強く残る
読者の記憶に残るまりなの姿——それは、しずかを無視し、排除しようとするリーダー的存在でした。
でも、まりなが本当に欲しかったのは「支配」ではなく、誰かに必要とされる安心感だったのではないでしょうか。
それを知らないまま、「加害者」というラベルだけが彼女に貼られてしまったことが、二重の孤独を生んだように思えます。
読者にとって“許しがたい”行動が多かった
タコピーにすら苛立ちをぶつけたまりなを見て、「どうしてここまで酷いことを…」と感じた人も多いはずです。
でも、そう感じたその瞬間、あなたの中にも「過去の自分」が泣いていたのかもしれません。
まりなは、きっと
「わかってほしい」
その一言を、どうしても言えなかっただけ。
嫌われたのではなく、理解されなかった。──それが、彼女の抱えていた本当の痛みではないでしょうか。
まりなの行動は「母親との関係性」がすべての始まりだった
まりなの言動を責める前に、彼女の“土台”になっている家庭に目を向けてみてください。
そこには、優しさも、温度も、ほとんど存在しない空気が漂っています。
言葉よりも無関心が支配する空間。
それは、子どもにとって何よりも残酷な場所です。
母親からの愛を受け取れなかった少女
まりなの母親は、表面的には“しっかりした大人”に見えます。
けれど、その言葉には温度がない。
家の中で、まりなが話しかけても、目を見て返してくれない。
それは拒絶ではなく、無視。
──この世界に、自分を“肯定してくれる誰か”がいない。
そんなふうに感じた子どもが、自分をどう保てばいいのでしょうか。
「褒められたい」「認められたい」欲求が歪んだ形で現れた
まりなの言動には、承認欲求が強く滲んでいます。
でもそれは、よくある自己顕示ではなく、「お母さん、見て」という切実な願いに近い。
褒められることが少なかった。
頑張っても報われる感覚を知らなかった。
だからこそ、誰かを見下ろすことでしか、自分の価値を感じられなかった。
学校でのいじめは、家庭の空白を埋める手段だった
しずかへの攻撃は、まりなにとって“誰かに必要とされる方法”のひとつだったのかもしれません。
誰かを排除すれば、自分のポジションが守られる。
強く振る舞えば、誰かが従ってくれる。
それは、家庭の中で得られなかった“存在の証明”を、学校という小さな世界でようやく手に入れた証。
──でも、それは本当の安心ではなかった。
まりなは、いつだって心のどこかで「こんなの本当の自分じゃない」と思っていたのではないでしょうか。
“嫌い”は共感の裏返し──なぜまりなに感情が揺さぶられるのか
まりなに対して「嫌い」と感じた人の中には、自分でも説明のつかないざわめきを覚えた人がいるのではないでしょうか。
ただの“嫌なキャラ”とは違う。なぜか記憶に残ってしまう。
それはもしかすると──まりなに、自分自身を投影してしまったからなのかもしれません。
まりなに自分の幼さを投影してしまう読者たち
心の奥にしまい込んだ、“理解されなかった過去の自分”。
その面影が、まりなの姿に重なったとき、私たちは戸惑うのです。
「どうしてそんなことをするの?」と責めながら、
「本当はわかってほしかったんだよね」と、自分の記憶に触れてしまう。
──その痛みを直視したくなくて、「嫌い」という言葉に置き換えたのかもしれません。
誰もが「まりな」のようになり得た
まりなのような存在は、特別なものではありません。
私たちも誰かを無視したり、傷つけたりした経験があるかもしれない。
ほんの小さな不安や孤独から、自分を守るために人を遠ざけたこともある。
“まりな的な自分”を否定することは、過去の自分の不器用さまで拒絶することになる。
だからこそ、彼女に対する感情は「嫌悪」と「理解」のはざまで揺れ続けるのです。
「わかってほしかった」あのときの自分を、まりなが代弁している
まりなの行動は、社会性の視点から見れば“問題行動”の連続かもしれません。
でも、その裏にはいつも、「誰かに気づいてほしかった」という叫びがありました。
もしかすると、まりなが見せてくれたのは、“理解されなかったときの私たちの感情”なのかもしれません。
だからこそ──彼女を嫌いになった瞬間に、私たちは「自分」を少しだけ思い出していたのかもしれないのです。
母と子の“連鎖”が描いたもの──愛されなかった子が愛せない理由
『タコピーの原罪』という物語が深く突き刺さるのは、ただの“いじめ”や“家庭問題”ではなく、感情の連鎖が描かれているから。
まりなと母親、そしてその周囲にいる人たちが、どこかで愛し方を知らずに傷つけていく様子は、どこか現実と地続きです。
そしてその中心にあるのが──「愛されなかった子は、誰かをうまく愛せない」という、悲しい連鎖の真実です。
まりなの母もまた、不器用に傷ついていた
まりなの母は、冷たくて、無関心で、厳しすぎる存在に見えるかもしれません。
けれど、ほんの一瞬だけ見せた“揺らぎ”のような描写が、彼女もまた何かを抱えていることを暗示しています。
完璧な親なんていない。
けれど、傷ついたままの大人が、自分の中の空白に気づかないまま子どもと接したとき、
そこには冷たい沈黙しか生まれません。
感情の連鎖はどこで断ち切ることができたのか
もし、誰かがほんの少しでも、まりなに寄り添っていたら。
もし、母親がほんの一言でも、「あなたがいてくれてよかった」と伝えていたら。
その“もしも”を考えてしまうほどに、この物語の空白は深く、そして苦しい。
でも、それは物語の中だけでなく、私たちの現実にもある問いです。
どこで、誰が、感情の連鎖を止められるのか。
その問いは、いまを生きる私たちに、まりなを通して投げかけられているのかもしれません。
タコピーが見せた“もしも”の可能性
タコピーという存在が、この世界にやってきたことは、奇跡のようで、滑稽で、でも本当は優しかった。
彼の存在がなければ、まりなは“壊れたままの連鎖”を引き継ぎ、誰にも気づかれずに終わっていたかもしれません。
タコピーがくれたのは、「やり直せるかもしれない」という希望。
それは、私たち自身が背負ってきた感情の歴史に対しても、そっと灯された光でした。
まとめ:まりなは嫌われるキャラではなく、心に問いを投げかける存在
『タコピーの原罪』におけるまりなは、確かに物語の中で多くの人を傷つけ、読者にも複雑な感情を抱かせる存在でした。
でも、だからこそ──彼女は私たちの「心の奥」を揺さぶったのです。
まりなに対して「嫌い」と感じた理由は、彼女の中に“昔の自分”を見たからかもしれません。
理解されなかった自分。
うまく愛されなかった記憶。
誰かを傷つけることでしか、自分を保てなかったあの頃の不器用さ。
まりなは、ただの嫌われキャラじゃない。
彼女は、「あなたの中にある、まだ癒えていない何か」に静かに語りかけてくる存在です。
物語の中でタコピーが教えてくれたように、
やり直すことはできる。
気づくことも、遅すぎることはない。
そしてそれは、まりなにとっても、私たちにとっても同じこと。
──「まりなが嫌い」と感じたあの日。
私たちは、まりなの中にいる“救われなかった自分”と、ひっそり再会していたのかもしれません。
🕊️ この記事のまとめ
『タコピーの原罪』に登場するまりなは、いじめや感情の爆発など、読者にとって“受け入れがたい存在”として記憶されることが多いキャラクターです。
しかし、その奥には、母親との関係性から生まれた孤独と、理解されなかった心の叫びが存在していました。
彼女を「嫌い」と感じた感情の裏側には、誰もが過去に抱えた“見捨てられた自分”が重なっていたのかもしれません。
まりなは加害者でありながら、同時に“誰かに気づいてほしかった子ども”でもあった。その両面性が、読者の心を揺らすのです。
そして、タコピーという存在が教えてくれたように、感情の連鎖は、いつか、誰かが止めることができる。
まりなを通して描かれた痛みは、私たち自身の過去と未来に静かに問いを投げかけています。